top of page
279856_l.jpg

送配電工学

配電線の雷に対する保護

 配電線は各家庭に電力を伝達する最後の設備であるため、これに障害が起こると大範囲で停電が発生してしまいます。そのため、他項で述べたように様々な手段により設備の保護が図られています。しかし、そのような設備を行っても避けることのできない自然災害が存在します。それが雷です。特に、日本ではその気候から夏季には多くの地域で積乱雲に伴う落雷が発生します。この項目では、雷に対してどのような対策がとられているのか見ていきます。

​雷による被害

①直撃雷

 最も分かりやすいもので、配電線に雷が直撃し、その電流が配電線を流れることによるものです。雷の電流は数kA~100kA程度と、普段流れている電流値とは比べ物にならない値を持ちます。継続時間は数μs~数ms程度です。直撃雷が落ちた場合、大電流により各種保護設備や需要家の設備、家電等の破損が発生し、被害は大規模に及びます。また、碍子が絶縁破壊して故障する可能性もあります(フラッシオーバ)。なお、フラッシオーバにより碍子が破壊するのを防ぐため、実際にはアークホーンが設けられます。さらに、鉄塔に雷が直撃して、アークホーンや碍子を通して送電線・配電線にサージ電流が流れることもあります(逆フラッシオーバ)。しかし、実際には後述するように架空地線が設けられているために直撃雷が起こることは一般にありません。

②誘導雷

 雷が直撃はしなかったものの、近くに落ちた場合に起こります。雷も電流ですからその周囲には電場の変化が生じます。これによって電線に電圧が生じ、サージ電流が流れます。いわゆる、雷によってPCが壊れた、という被害はこの誘導雷によるものです。

③そのほかに、近接落雷や、避雷器からの放電が起こった際に、近くに施設されている変圧器の接地線から電流が遡上し、配電線にサージ電流が侵入する場合があります。​

雷に対する対策

①避雷器​(SPD)

 避雷器は配電線と大地の間に挿入されています。避雷器には動作電圧が設定されており、誘導雷によりこの電圧を超える電圧が配電線に印加されると、避雷器が動作します。その結果、配電線から大地へと電流を逃がす経路が避雷器によりつくられ、負荷に印加される電圧を抑えることにより機器の故障を防ぐことができます。一般に動作電圧は需要家の設備や一般家庭の家電が耐えうる電圧よりも低い値に設定します。

 【通常時】

​​配電線から流れてくる電流の電圧は避雷器の動作電圧より低いため、問題なく各家庭へ配電されます

避雷器_通常時.png

 【落雷時】

​​落雷によりサージ電流が生じます。この電圧は非常に大きいため、避雷器の動作電圧を超えた分は避雷器を通して大地へ流れます。これにより、家庭へ届く電気の電圧は動作電圧以下となり、負荷にダメージを与えることはありません。

避雷器_落雷時.png

 【避雷器の種類】

避雷器を構成する要素として気中ギャップと特性要素があります。古くから使われているのは気中ギャップと特性要素(SiC)を併用したものです。グラフに示すように、SiCは高い電圧になるほど大きな電流を流すことができます。しかし、その特性は線形に近く、ある電圧を超えたら電流を流す、といったことはできません。そこで、気中ギャップを直列に設けることにより、このギャップが絶縁破壊するような電圧が印加されない限り電流は流れないことになります。一方で近年では特性要素にZnOを用いることで気中ギャップをなくしたものが見られるようになりました。ZnOはある電圧を閾値として大きな電流を流すことができるようになるため、避雷器に求められる要素を単独で満たすことができます。

特性要素.png

出典:中部電気協会、「新訂 配電工学 現場の手引き (2)」、コロナ社、1983年

   酒井祐之、「送電・配電」、オーム社、2001

bottom of page